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ワークプレイス

情報通信技術によるオフィス・コミュニケーションの課題解決

あたらしいオフィスワークをささえる方法・手段とその課題においてのべた課題を情報通信技術 (ICT) によって解決する方法についてのべる.

1. コミュニケーション・メディア / コラボレーション・ツールの要件

あたらしいオフィスワークをささえる方法・手段とその課題1.4 節を中心にのべたように,現代のビジネスが要求するグループワークのためには,そこでつかわれるコミュニケーション・メディアやコラボレーション・ツールはつぎのような要件をみたす必要がある.

A) なまみの人間の関係への配慮
従来のグループウェア等にとりいれられている “コミュニティ” というような単なる論理的なしかけでなく,ソーシャル・キャピタルをはじめとする,なまみの人間の関係を考慮し,快適で魅力ある場をつくる.
B) 文字情報一辺倒からの脱却
音声や画像などの情報をもっとあつかいやすくし,現在のグループウェアにおいて文字偏重になっている状況からの脱却をはかる.
C) 周辺的情報の伝達
文字だけ,音声だけではつたわらない,さまざまな周辺的情報をつたえる.
D) ひらかれたユビキタスな電子的環境
いつでもどこでも,組織をこえてコミュニケーションやコラボレーションができるようにする. 対象となる集団はひらかれた “コミュニティ” であり,そのメンバーは流動的すなわち参加・脱退がおこり,またメンバーどうしが知りあっているとはかぎらない.
E) セキュアなユビキタス環境
ユビキタスな環境では情報漏洩などセキュリティやプライバシーへの脅威がおおきいため,セキュリティの確保はユビキタス性としばしば衝突する. この矛盾を解消してセキュアなユビキタス環境を構築する必要がある.
F) 組織の生産性向上
コンピューティング環境の整備により個人の生産性をたかめるだけでなく,それがコミュニケーション環境などを通じてチーム,企業などの組織の生産性向上につながるようにする.

2. メディア・ワークプレイス

上記の要件をみたす環境として,ひらかれたセキュアな状況依存のコミュニケーションやコラボレーションの場としてのメディア・ワークプレイスという概念を提案する. この節においてはメディア・ワークプレイスについて説明するが,それにさきだって,その前提となる “コミュニティ” を類似の概念と対比して説明する.

コミュニティ,グループ,チームという 3 つのことばはいずれも人間の集団をあらわすことばだが,Schlichter ら [Sch 98] はつぎのようにくべつしている.

コミュニティ
なにか (たとえば言語,ネットワーク・アクセスなど) を共有しているが,かならずしもたがいに知りあっていないひとびとの集合.
グループ
コミュニティであって,かつ,たがいに知りあっているひとびとの集合. かならずしも協働しているとはかぎらない.
チーム
グループであって,かつ,協働しているひとびとの集合.

従来のグループウェアはおもに上記の意味のグループまたはチームを支援するためのソフトウェアであるが,今後はコミュニティを支援することが重要な機能になるとかんがえられる.

つぎに,メディア・ワークプレイスについて説明する. メディア・ワークプレイスにおいては,前節でのべた要件をみたすためにつぎのような方法をとる. (前節の要件との関係をあきらかにするため,括弧内に要件の記号 A~F をしるす.)

1. 状況依存の場としてのメディア・ワークプレイスの実現
“コミュニティ” の概念は,グループウェアに関して使用される意味においても,また通常,使用されている意味においても,状況に依存しない. 「状況依存の場としてのメディア・ワークプレイス」 とは,従来の “コミュニティ” の概念に状況依存性 (situatedness) あるいは文脈依存性をあわせたものであり,一種の仮想的な場所 (virtual place) である. この “場所" の概念については次節で詳説する. 状況依存性をあわせるということは,状況をつたえる,すなわち周辺的な情報をその場所に位置づけて (grounded) 表現することを意味する (C). ひとが自分がおかれた状況に気づいていることをアウェアネスという. したがって,メディア・ワークプレイスにおいてはアウェアネスが実現されなければならない. アウェアネスはこまかく分類されているが,ここで重要なのはプレゼンス・アウェアネス,ワークスペース・アウェアネス,ソーシャル・アウェアネスなどである . 状況依存性の実現にあたっては,ソーシャル・キャピタルなど,人間的な要因を十分,考慮する必要がある (A).
2. ひらかれたメディア・ワークプレイスの実現
メディア・ワークプレイスはそれを使用する (メディア・ワークプレイスごとにきまった) コミュニティのメンバーがどの組織に属していようと,いつでもどこでも,つかえるようにしなければならない (D). また,各組織や個人が選択したさまざなメディアやツールを通じて,そこにアクセスできるようにしなければならない (D). そのためには,アクセスのためのプロトコルまたはネットワーク・ワイドのミドルウェア (Grid) が標準化されている必要がある. また,メディア・ワークプレイスはそこにあらたに加入しようとするひとに対してもひらかれた存在にできるようにする必要がある. つまり,あらたなメンバーをうけいれることができ,またメンバーがそこからぬけることもできるようにする. あらたに参加したメンバーと既存のメンバーとは知りあっていないので,必要に応じて出会いの機会をつくる機能も必要である. ただし,もちろん閉鎖的なコミュニティも実現できるようにする必要がある.
3. セキュアなメディア・ワークプレイスの実現
メディア・ワークプレイスのセキュリティをまもるためには,その外部から勝手に侵入されないようにしなければならない (E). 悪意をもった侵入者に対してはファイアウォール的な機構を用意するとともに,関係のあるメディア・ワークプレイス 間ではよりこまかい,やくわりにもとづくアクセス制御 (Roll-Based Access Control, RBAC) の機構が必要だとかんがえられる. また,ユーザがメディア・ワークプレイス内での自分の居場所を意識し,またシステムがコミュニティや状況を把握することによって,不意の情報漏洩などの事故を防止しやすいとかんがえられる.
4. 快適で魅力あるメディア・ワークプレイスの実現
単独での仕事も,コミュニケーションやコラボレーションも,快適で魅力あるものにするメディア・ワークプレイスを実現する必要がある (A, F). メディア・ワークプレイスのなかに実空間におけるアトリウムのような魅力ある場所をつくりだすことも必要だとかんがえられる.
5. 統合的メディア環境としてのメディア・ワークプレイス
メディア・ワークプレイスにおいてはさまざまなコミュニケーション・メディアが統合的に,かつ状況に応じて使用できるべきである. すなわち,文字メディアと音声メディアや画像メディア,非同期型のメディアと同期型のメディアなどが,単に入口 (portal) を共有しているだけでなく,コミュニケーションの途中でくみあわせられ,たがいに連携しながら使用できるべきである (B). それぞれのメディアはことなるプロトコルによってつたえられるので,このくみあわせを実現するためには,それを制御するためのプロトコルが必要である. また,これらのメディアの機能はコミュニティや状況を反映することによって,より便利で情報共有やソーシャル・キャピタル育成を促進するものになりうるとかんがえられる (A, C).

上記の 5 点についてはさらに検討する必要があるが,それは今後の課題である. ここではメディア・ワークプレイス概念について補強するため,“仮想の場所” の概念について説明するにとどめる.

3. 仮想の場所

遠隔コミュニケーションやコラボレーションのためには,仮想の “場所” (place) が必要だとかんがえられる. ここでは voiscape [Kan 03] [Kan 05] を中心として,まずコミュニケーションにおける場所について考察し,つづいてコラボレーションにおける場所について考察する.

voiscape は方向感・距離感のある音声によるコミュニケーション・メディアであるが,voiscape においては “音室” という会話のための 3D の仮想空間 (実際には 2 次元) を使用している. 音室は一種のサイバー・スペースであるが,論理的には音室への入室をゆるされたメンバーが構成する “コミュニティ” と入室したメンバーの音室内での状況をあわせた概念であり,前節でのべた “場所” あるいはメディア・ワークプレイスの概念に相当する. voiscape においてはこの “物理的な” 仮想空間を地図によって表現し,そこに机などのアイコンをおくことによって,その音室のなかに論理的な “コミュニケーションの場” をつくることができるようにしている. すなわち,voiscape のユーザは 「ピンクの机のそば」 というような表現によって音室内の場所を指定してコミュニケーションの場を指定したり,そこをあたらしいコミュニケーションの場とすることができる.

しかし,音声コミュニケーションにおいて仮想空間を使用するというかんがえかたは,voiscape の被験者にかならずしも支持されていないとかんがえられる. たとえばテレワークのためのコミュニケーション・ツールにおいて仮想空間の必要性は感じられないという指摘もある. 電話をはじめとする従来のメディアにおいてもコミュニケーションのための仮想空間は存在しているとかんがえられる [Kan 03] が,おおくのばあい仮想空間の存在は意識されないので,その必要性が認識されないのであろう. しかし,とくに 3 人以上による遠隔会議においては各参加者がなんらかの空間のなかでことなる位置に位置づけられているとかんがえられる. たとえば,ビデオ会議においては各参加者は画面上のことなる位置に位置づけられる.

また,コミュニケーションの場の必要性は仮想空間以上に理解されにくいとかんがえられる. すなわち,voiscape のようなメディアの使用経験をかさねることによって,はじめてその価値が認識されるものとかんがえられる.

一方,コラボレーションに関してはすでに製品レベルでも場所の概念が限定的に導入されているとかんがえられる. PricewaterhouseCoopers [Pri 01] はユーザごとに個別化されたグループウェアのフロントエンドをワークプレイスと呼んでいる. また,IBM 社はグループウェア製品群に IBM Workplace [Spe 05] というなまえをつけているし,日立の GroupMax においてもワークプレイスという用語が使用されている. これらにおいては実空間におけるワークプレイスをメタファとして使用しているのだとかんがえられる.

上記のようにコミュニケーションとコラボレーションとで仮想の場所に関する現状はことなっているが,コミュニケーションの場所とコラボレーションの場所とは整合するべきだとかんがえられる. また,とくにフリーアドレスやホテリングが採用されたオフィスにおいては実空間が “場所” として機能しにくくなっているとかんがえられるので,それにかわる仮想の場所がもつ意味が増大する,すなわちそれが仕事のよりどころとなるのではないかとかんがえられる.

参考文献

  • [Kan 03] 金田 泰, “仮想の ‘音の部屋’ によるコミュニケーション・メディア Voiscape”,電子情報通信学会 技術研究報告 (MVE / VR 学会 EVR 研究会),2003-10-7.
  • [Kan 05] Kanada, Y., “Multi-Context Voice Communi-cation in A SIP/SIMPLE-Based Shared Virtual Sound Room With Early Reflections”, NOSSDAV 2005, pp. 45–50, June 2005.
  • [Pri 01] PricewaterhouseCoopers LLP and SAP AG., “The E-Business Workplace: Discovering the Power of Enterprise Portals”, John Wiley & Sons International Rights, Inc., 邦訳: プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント (株) ワークプレイスソリューション本部 訳,“ワークプレイス — デジタルカンパニーへの最終兵器”, 東洋経済新報社, 2001.
  • [Sch 98] Schlichter, J., Koch, M., and Xu, C., “Aware-ness — the common link between groupware and community support systems”, In Ishida, T. ed., Com-munity Computing and Support Systems, pp. 77–93. Springer Verlag, 1998.
  • [Spe 05] Spencer, D. W., “Understanding IBM Workplace Strategy and Products : Featuring Lotus Workplace”, Maximum Press, February 2005.
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