並列 / 分散 / 協調処理に関する「鞆の浦」サマー・ワークショップ (SWoPP '93) 報告

報告者 : RWCP 情報統合研究室  金田 泰
Written as plain text: 8/26/93.
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参照 : [RWCP ホームページ], [金田のホーム・ページ] [親ページ].


1. 概要

情報処理学会 6 研究会と電子情報通信学会 2 研究会合同の上記ワークショップ において発表および聴講するため,8/18〜20 に鞆の浦シーサイド・ホテルに出 張した.聴講したセッションはつぎのとおりである (以下のセッションはすべ て情報処理学会の研究会に属する).

2. 注目すべき発表

いくつかの発表について報告する.なお, RWCP からの発表のうち何件かは SWoPP 当日には聴講しなかったが,あらかじめ内部の報告会において聴講したので, それもあわせて報告する.

2.1 人工知能研究会

AI-1:89-1 プロダクション規則と局所評価関数にもとづく計算モデル CCM による問題解決法の特徴,報告者

問題解決 (解の探索) をおこなうのに,探索すべき状態を頂点とする探索グラフ をかんがえ,そのうえの酔歩 (random walk) を基本とする探索法を提案した. 単なる酔歩では解をもとめるのに莫大な時間がかかるため,より有望な方向へ バイアスをかける.このわくぐみは,報告者が提案している CCM (化学的キャスティング・モデル) をつかうことによって実現される.例題としてグラフ (または地図) 彩色問題をとりあげるとともに,この探索法の特徴について説明した.
質疑 : 発表内容をしぼりきれなかったために質問時間が 2 分程度しかとれず, 十分な議論ができなかった.また,発表において 2 種類のまったくことなる意 味をもつグラフに明確なくべつをあたえなかったための誤解にもとづく質問も あり,発表が十分に洗練されていなかったことを痛感した.実行をどうやって とめるかという質問もあったが,報告者にとってもっとも意義がある意見 (発 表終了後にきいたもの) は,AI の世界ではランダム・サーチは基本的にはだめ だと認識されているから,なぜいまランダム・サーチを研究するのかを説明し たほうがよいという意見 (富士通研 吉田氏) である.今後の参考にしたい.

AI-3:89-11 力学に基づく分散的論理推論,橋田 浩一 (電総研) 他 2
AI-3:89-12 力学的制約による状況エージェントの協調的行動, 長尾 確 (ソニー CSL) 他 2

橋田氏らは以前から複雑な論理的推論を効率よくおこなうための「力学論理」 を提案している.力学論理ではポテンシャル・エネルギーにもとづくアナログ 的計算と,論理推論というディジタル的計算とをくみあわせて推論をおこなう が,今回の橋田氏の発表では多段の推論に適さない以前のアナログ計算法を改 良して,よりおおくの部分をディジタル計算からアナログ計算におきかえた, 一般的なわくぐみにもとづいた推論法をしめした.また,長尾氏は力学論理を ロボットなどの協調的行動に応用する方法をしめした.
感想 : 橋田氏は人間やロボットの状態や行為を記述するのに 1 階の論理が必要 だと主張し,発表においても論理,制約,推論などのことばを強調している. しかし,発表者がめざすのは論理や制約のような静的なものではなく,動的に ロボットの行為をきめるようなことである.「ほんとうにやりたいことは制約 や論理とは関係ないのではないか」という報告者の質問に対して,橋田氏も「制 約ということばをつかわないほうがよいかもしれない」とこたえていたが,む しろ論理や制約ということばからはなれてより自由に発想したほうがよいよう に報告者にはおもわれる.

AI-4:89-12 自律エージェントの集団的戦略変更とその応用, 沼岡 千里 (ソニー CSL)

火災を協力して消すか逃げるかというような集団的な戦略の変更を相転移とし てとらえ,それをひきおこすダイナミクスを研究している.各エージェントが ある関数を最適化するというようなアプローチをとっている.応用としては並 列計算機における process migration をかんがえているという.
感想 : このような問題依存の力学にもとづくアプローチと,橋田氏のような一 般性をめざしたアプローチとがどういう関係にあるのかを把握したいが,いま のところ報告者にはわからない.

AI-5:89-19 実時間応答を目的とした推論方法に関する研究, 今成 文明 (立命館大) 他 2

時間がないときには重要な制約だけを考慮し,時間があるときにはあらゆる制 約を考慮して問題をとくという実時間の問題解決のために制約を 2 種類にわけ, 絶対的でない制約をその種類ごとに (?) エージェントに分配して協調的にとく 方法をしめしている.
感想 : 制約を重要度でわけて制約充足問題をとくことに関する研究は重要だと おもう.しかし,この発表でしめされた方法が他の方法よりよい (点がある) の かどうかがわからなかった.報告者もこのような種類の問題を CCM をつかっ てとくことをこころみたいとかんがえている.

2.2 アルゴリズム研究会

AL-1:34-1 Optimal Initializing Algorithms for Reconfigurable Meshes, 中野 浩嗣 (日立基礎研)

メッシュ型の超並列計算機における,PE (Processing Element) の故障にもたえら れる初期化のアルゴリズムについての発表である.いかにすれば O(log N) ある いは O(log*N) (N は PE 数) の時間で初期化できるかを論じている.
感想 : 提案された方法では,均一なメッシュ型の超並列計算機における PE の 列を不均一にすなわち 2 のべき乗ごと (1, 2, 4, ... 列) に動的にくぎってつかうこ とによって性能を向上させているところが興味ぶかい.

2.3 計算機アーキテクチャ研究会

ARC-1:101-1 データ駆動型並列計算機研究の展望,弓場 敏嗣 (電通大)

データフロー計算機の研究の歴史を 4 つの世代 (可能性探索 : '75-'80 頃,実用 性検証,実用化検証,実用化 : '95 頃から) に区分して概観した.データフロ ー計算機がもつ問題点とそれがどのようにして克服されてきたかということと が中心に説明された.技術的な説明にはたちいらず,問題点の説明も抽象的だ った.
感想 : 電総研でながらくデータフロー計算機の研究にかかわってきた弓場氏の 見解では,データフロー計算機はノイマン型計算機のよさをとりいれて実用に むかいつつあるという.これに対して,質問の一部にこたえたもと電総研の (弓 場氏よりはややわかい世代に属する) 島田氏は,データフロー計算機は存亡の 危機にあるという認識をもっているという.電総研から RWC に出向している 坂井氏は,かれがかかわっている EM-4 や RWC-1 をデータフロー計算機とは 称しておらず,データフロー計算機という概念にこだわりをもっていないよう にみえる.このような世代ごとの認識のちがいが興味ぶかい.報告者のかんが えでは,次世代の並列計算機はノイマン型並列計算機のなかにデータフロー計 算機のよい部分が吸収されるかたちで融合がはかられ,データフロー計算機と いうものじたいはきえていくことになるとおもう.

ARC-2:101-2 超並列計算機 RWC-1 における同期機構, 岡本 一晃 (RWCP) 他 7 (事前に聴講)

超並列計算機 RWC-1 は電総研で開発されたデータフロー的な並列計算機 EM-4 の後継機と位置づけられるが,実時間機能をとりいれるため,EM-4 のように ハードウェアだけで PE 間の同期 (通信) をとるのをやめ,ハードウェアの同期 機構を命令で起動するようにした.この発表ではその概要を説明した.
感想 : EM-4 はデータフロー計算機にノイマン型計算機 (RISC) のよい部分をと りいれた計算機ということができるが,RWC-1 はさらにノイマン型への接近 をはかっているといえるだろう. RWC-1 にはまだ通信の際にあてさきの命令 のどのオペランドのデータであるかを指定するようになっている点がデータフ ロー計算機的である.しかし,これ (だけ) をハードウェアで区別する必要があ るのかどうか,報告者は疑問を感じる.この区別がなくなると,もはやデータ フロー計算機らしさはなくなるのではないかとおもわれる.

ARC-3:101-6 超並列テラフロップスマシン TS/1 の構想, 田辺 昇 (東芝) 他 3

PE 間にベクトル・パイプラインをはることによって,超並列計算機全体とし て行列演算のような高並列超細粒度の演算を効率よく実行することができる計 算機の開発構想を説明した.質疑において RWC の坂井氏ほかからきびしい批 判をうけていた.
感想 : 坂井氏によると,この発表でしめされたアーキテクチャは近未来の needs にあうものではないという.また日立中研の田中氏によると,発表者が いうような低コスト (20 万円 / PE) ではできないのではないかという.しかし, このアーキテクチャは報告者が以前からぼんやりとかんがえていたものにちか く,できれば応援したいとおもってしまう.

2.4 プログラミング研究会

PRG-3:13-10 A new technique to improve parallel automated single layer wire routing,Hesham Keshk 他 3 (京大)

従来の並列配線法においては配線すべき領域をメッシュできってその内部をま ず配線し,そのあとでメッシュにまたがる配線をおこなうようにしていたが, これでは後者がうまく配線されない.そこで,発表者は計算中にメッシュをき りなおすいくつかの方法をこころみて効果をあげた.
感想 : SWoPP '93 のなかで配線関係の発表はアルゴリズム研究会に 2 件,プロ グラミング研究会にこの発表 1 件があった.そのなかでこの発表はより大規模 の例題をつかって実験をおこない,したがって実用にちかいところにあるとか んがえられる.
Y. Kanada (Send comments to kanada@trc.rwcp.or.jp)