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政治・法律・憲法:裁判員制度, 知的生産とリテラシー:視覚化・図解・グラフ

裁判員のための図式化された情報分析判定法の案

システマティックな情報分析法・思考法と裁判員制度」 という項目に書いたように,裁判のスキルがない裁判員にはスキルにかわる手段が必要である. その手段はわかりやすいものでなければならない. そのためには,べったりと文章によって記述されたものではなく,ダイヤグラム,表,図解といった視覚的な手段をつかうのがよいだろう. ここではまだまったく未完成のかたちながら,そういう手段の案をしめしてみたい.

概要

裁判員にあたえられるべきあたらしい手段は,単にスキルがないのをおぎなうために必要なのではない. 裁判官がおちいりやすいあやまりをただすためにも,裁判員には裁判官がもっていなかった 「武器」 (手段) が必要である.

裁判員は知識もかぎられているため裁判官との合議において対等に議論するのがむずかしいといわれている. しかし,こうした 「武器」 を手にいれることによって,裁判員は裁判官に対抗することができるとかんがえられる. そして,それによって裁判員制度を有効なものにすることができるとかんがえられる. なぜなら,裁判員が裁判官のいいなりになってしまうのでは,これまでとおなじ判決しかだせない,つまり裁判員制度をつくった意味がないからである.

それでは,その 「武器」 はどういうものであるべきなのだろうか? それはよりおおくの裁判員が理解できるものでなければならない. そのためには,これまでの判決のようにことばでくみたてられた論理にたよるのではなく,直観的に理解できるものである必要がある. だれもが直観的に理解できるもの,それは図式,表,図解というような視覚的な表現を多用したものであろう. したがって,ここではどのような図式,表,図解をとりいれればよいかを例をもってしめすことを目標とする (ただし,その目標は現時点ではまだ一部しか達成されていない).

裁判員の仕事にはつぎのようなステップがあり,ステップごとにことなる手段が必要だとかんがえられる.

有罪 / 無罪 判定
被告が有罪であるか,無罪であるかを判定する. 陪審制度においては陪審員の仕事はここまででおわるが,裁判員制度においてはそうでない.
死刑 / 無期 判定
重大な犯罪のばあいには,まず被告を死刑・無期刑のいずれかにするか,あるいは有期刑にするかの判定が必要である.
量刑判定
有期刑のばあいはさらに懲役刑か禁固刑か,何年何ヶ月かをきめる必要がある.

以下,これらのステップごとに記述する.

有罪 / 無罪 判定

証拠の採否は裁判員の仕事ではない. そこに裁判員がかかわるべきだという意見もあるだろうが,この問題はべつの機会にとりあげられるべきである. 裁判員はすでに採用された証拠にもとづいて,まず事実認定をおこない,被告が有罪であるか無罪であるかを判定しなければならない. すなわち,裁判員は冤罪の危惧があるときには無罪と判定するべきであり,冤罪でないと確信できるときだけ有罪と判定するべきである.

この判定のためには認定するべき事実を項目にわけ,項目ごとに事実であるかそうでないかを判定する必要があるだろう. ここでは各項目を行とする表をつくる必要があるとかんがえられるが,まだその詳細を検討していないので,この部分はあとで追記することにする.

ただし,この判定は陪審制度がある国においては特別の手段なしに従来から陪審員がおこなってきているものであり,あらたな手段を導入する必要はないかもしれない. しかし,陪審制度と裁判員制度とのひとつのちがいは,裁判員制度においてはこのステップにおいても裁判員と裁判官との合議によって結論がみちびかれるという点である. 合議において裁判員が 「武器」 を手にするためには,あらたな手段が必要ではないかとかんがえられる.

死刑 / 無期 判定

陪審制度においては陪審員の仕事は 有罪 / 無罪 判定 まででおわるが,裁判員制度においてはさらに量刑をきめなければならない. 重大な犯罪のばあいには,まず被告を死刑・無期刑のいずれかにするか,あるいは有期刑にするかの判定が必要である. この判定のおよその論理は森 [Mor 08] に記述されている. この論理はおおまかにいうと手順的に決定される. すなわち,およその決定手順をフローチャートや決定木のかたちで記述することができる.

この手順を記述した例を図 1 にしめす. わかりやすくするため,この手順は最終的にはフローチャートまたはそれにちかい図式的な表現をつかって記述されるべきだとかんがえられるが,とりあえずは記述の容易さのために文字列だけで表現する.


S: 被害者 (死亡者) の数・回数は?
3 人以上 (2 回以上) → D, 2 人 (または 2 回) → D2, 1 人 (または 1 回) → D1 にすすむ.
D2: 被害者は若年か?
犯行時 18 歳以上 → D21, 犯行時 18 歳未満 現在 18 歳以上 → D11, 現在 18 歳未満 → U21 にすすむ.
D1: 被害者は若年か?
犯行時 18 歳以上 → D11, 犯行時 18 歳未満 → U11 にすすむ.
D21: 犯行は計画的 (悪質) か?
Yes (悪質誘拐殺人, 悪質保険金殺人, 悪質強盗殺人等の主犯) → D, No → U にすすむ.
D11: 犯行は特に計画的 (悪質) か?
Yes (悪質誘拐殺人の主犯) → D, No (保険金殺人, 強盗殺人他) → U にすすむ.
U21: 犯行は計画的 (悪質) か?
Yes (悪質誘拐殺人, 悪質保険金殺人, 悪質強盗殺人等の主犯) → U, No → L にすすむ.
U11: 犯行は特に計画的 (悪質) か?
Yes (悪質誘拐殺人の主犯) → U, No (保険金殺人, 強盗殺人他) → L にすすむ.
D: (殺人罪または強盗殺人罪により) 死刑とする.
U: 無期懲役とする.
L: 有期懲役
→ 量刑判定にすすむ.
図 1 死刑 / 無期 判定の手順 (未完)

ここで注意するべきことがいくつかある.

  • 第 1 に,このフローチャートはコンピュータのプログラムとはちがって,機械的に結論をみちびくためのものではない. 入力がきまれば機械的に結論がみちびかれるのであれば裁判員は必要ない. コンピュータがあれば十分である. このフローチャートの目的は,そうではなくて,フローチャートを構成する各ステップにおいて裁判員がどの選択肢をとるべきかを知識と良心などにもとづいてきめる,そのときにそこで必要なことだけに集中できるようにすることである. 裁判官はおおくの知識を一度につかって判定できるかもしれないが,裁判員のためには複雑さをへらす必要がある. すなわち,いまかんがえるべきことを限定する必要がある. そのためのフローチャートである.
  • 第 2 に,まだこのフローは単純化されすぎているとかんがえられる. このフローに記述したこと以外にも考慮するべき点は多々あるとかんがえられる. たとえば,森 [Mor 08] は従来の判決においては,「未遂・傷害をともなうか?」,「利欲犯か?」,「自首したか?」 といったことが死刑か無期かをきめるときに要因としてはたらいてきたと指摘している. したがって,これらを考慮する余地をあたえるべきである (これらの要因はフローチャートの構造に反映されるべきかもしれないし,図 1 におけるいずれかのサブステップにおける判定において考慮されればよいのかもしれない.)
  • 第 3 に,裁判官によっては裁判員がこのような固定的なフローにもとづいて判定をおこなうことを許容しないであろうことを考慮する必要があるとかんがえられる. すなわち,従来の裁判官による判定はこのようなフローにもとづいてなされていたのでないから,特定の裁判における裁判員と裁判官との合議において,固定的なフローにもとづく判定をみとめない裁判官もでてくるだろう. こういう裁判官を納得させるには,すくなくともフローチャートが柔軟である必要がある. つまり,合議の際にその裁判官が納得できるようなかたちにフローを変更する余地がなければならないとかんがえられる. フローをあまり複雑にしてしまうと変更が困難になり,また妥当性が判定しにくくなるので,あまり複雑にすることはさけなければならないとかんがえられる.

量刑判定

量刑を左右する項目を行とする表を記述する. 項目ごとに評価値を記入すると,そこから量刑が計算されるようにする. まだ詳細を検討していないので,この部分はあとで追記することにする.

参考文献

  • [Mor 08] 森 炎, “あなたが死刑判決を下すその前に”, パロディ社, 2008.

関連項目

(2008-8-31 追記)

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