From: "増澤 徹 " Newsgroups: tnn.interv.disaster.network Subject: VAG&VAC with CRLF Message-ID: Date: 31 Jan 1996 02:28:00 +0900 ...[中略]... VAGの増澤と申します。 先日、神戸大学の大月先生のところでお話しさせていただく機会を得ました。 その内容に加筆し、VAGの紹介も兼ねてUPさせてもらいます。 [VAGとは] VAGは、ボランティア支援(アシスト)グループの略字で、そもそもは現場 のボランティア団体のアシスト(supportではなく、あくまでもassistです) をさせていただくことにより、ボランティア団体間の交流促進、情報流通の円 滑化を図ることを目的に1995年2月21日に山本裕計氏と私で発足した団 体です。その活動内容として 1.各ボランティア団体のデータ収集、処理の手伝い、および、コンピュータ   システム、ネットワーク等導入コンサルテーション、支援。 2.各ネットワークに挙がってくる情報の収集、整理、集約。 3.会員相互の人間ネットワークを生かし、各ボランティア団体の相互交流、   情報共有化の手伝い。 4.現場ボランティア作業の紹介。 5.今後の情報ボランティア形態に関する試験的検討。 を挙げています。設立当初は上記活動を通して 「各ボランティア団体の実質的(対人)ネットワーク形成に努め、  最終的には効率的人的資源配置の調整を行える人材派遣ネットワークの作成,  および収集情報を効率的に活用できるボランティア団体間ネットワーク作成を図る.」 ということを目指していたのですが、時期的にその発足が遅く、そこまでは行 きませんでした。また、実際にはボランティア団体のアシストだけではなく、 実際のボランティア活動も行っております。 我々の主な活動結果になっている、インターVネットの「生活情報(2700 件以上にのぼる情報のうち93%はVAGの会員が上げたものです)」も、も とはと言えば、兵庫県震災ネットワークを支援するために上げたものです。 パソコンが避難所に配られても、 「見るコンテンツが無ければしようがない。しかも、情報提供できれば  被災者の人達の役にも立つ。」 との山本裕計氏の考えから、我々独自で集約したものです。生活情報の集約は VAG会員の清水氏が情報ボランティアグループ時代に提唱し、私がそのフォ ーマットの叩き台を提供し、共に立ちあげたものでした。私も清水氏も情報ボ ランティアグループに所属していたのです。その生活情報集約方式を立ちあげ たしばらく後、情報ボランティアグループは自然消滅的に活動を停止し、私と 清水氏でインターVネットに情報を移行しました。情報ボランティアグループ の岡本氏にはVAG設立より我々のメイリングリストに参加してもらっており 、了承が取れているものと思っていたのですが、考えの違いより、禍根を残す 結果となってしまいました。生活情報に関する活動が、岡本氏は、「情報ボラ ンティアグループに属する」と考え、我々は「我々個人(当事者)に属してい るもの」と考えた点が一番大きい相違点と思います。 また、良く誤解されるのですが、我々の活動はインターVネットとも兵庫県震 災ネット、情報ボランティアグループとも無関係のものです。これだけは会員 のために明確にしなければならないと思っているのですが、誰かから頼まれて 生活情報を上げているわけではありません。我々は、 「我々の情報が一人の人にでも役に立てばそれで良い」 と思って活動しています。よく、 「そんな効率の悪いことでどうする」 との声を聞きますが、我々は営利団体ではありませんし、ましてや、現状は効 率を最優先するような状態でもありません。 「2700の情報を上げて、そのうち一つでも誰かの役に立てばそれで本望」 と考え、皆活動を続けてきました。「一人の人の役にたつ」ことと「数千人の 人に役にたつこと」のあいだに「役にたつ」という観点から何か違いでがある でしょうか?効率を度外視したボランティア活動があっても良いと思います。 他の効率のよい活動は、それができる団体にお任せすればよいとも思っており ます。我々はそれぞれ、仕事持ち、遠隔地在住者の集まりですから、コツコツ としかできませんし、 「空いてる時間に無理のないボランティア」 が我々のモットーでもあります。 また、インターVネットの「現地からの声」(この80%はVAG会員の手に よるものです)にも代理UPと言う形で投稿しておりますが、これは逆に、 「ネットワークに声を乗せることのできない現地の人のいろいろな声をUPし て、できるだけ多くの人に知ってもらおう」 と考えて行っております。代理UPしているもの中には、どうしても賛同でき ないようなものもありましたが、それも「現場の声」なので、公序良俗に触れ ない内容である限りUPさせていただきました。我々が我々の好みで情報を選 別をすることは情報操作に等しくなりますので、その内容とVAGは無関係で あることを前提として代理UPを続けております。代理UPする側からすれば 、自分の意に反する内容をUPするのは、はっきり言ってひじょうに心苦しい ものです。ですから、我々の間では、「本当に自分がいやだと思ったら、他の 人に頼む」「内容とVAGは無関係であることを明記する」ことを取り決め、 代理UPを行っております。 [VAC構想について] 今でこそ、WNNと並んで息の長い情報系ボランティア(私はこの言葉が好き ではありません)となりましたが、1995年の4月初旬の時点では現在の活 動とは別の違う活動に移る必要性を私は感じており、VAG内部でも議論が沸 いておりました。その理由は、 1.被災者が我々が収集している情報を知りたい場合は、電話等で簡単に   知ることが可能である。 2.非難所の必要としている情報は、主に、仮設住宅、税金、給付金等の   情報もしくは、ごく限られた地域向け情報であり、我々の収集している   情報とマッチしない。 3.上記点から、被災者のための生活情報収集の有効期限は震災発生後   1カ月と推定される。 の3点です。そこで、私が1995年4月2日にVAGのメイリングリストに 流したものがVAC構想でした。以下にその原文を記します。 〜〜[VAC(Volunteer Assist Center)構想](4/2/95)〜〜 本構想は来る震災の備えとして、特に、震災直後の情報収集、集約、提示に焦 点を当てたボランティア活動支援センターの構築を目的としている。 想定しうる活動としては 有事の際は 1.ボランティア団体への避難所、被災者情報の迅速かつ効率良い提示 2.現地におけるボランティアの一括登録および効率の良い配置 3.各避難所、被災者の状況調査、情報提示実行部隊の編成および指揮 4.避難所、被災者向け支援物資の管理および効率良い配付の指揮 5.各ボランティア団体間の連絡、調整および各団体の活動把握 6.被災者向け情報の収集、集約、配付 平常時は 7.上記業務遂行のための有事における実働ボランティア予備軍の登録、イン フラ整備、必要技術、装備、マニュアルの検討、準備 8.有事に備えた既存ボランティア団体,行政,個人間のネットワ−ク形成 9.マスコミ等の情報収集団体とのネットワ−ク形成 10.国,災害対策諸機関、地方自治体とのネットワ−ク形成 11.全国各地の避難所(候補地)のリストアップ、ネットワ−クの構築 12.各地における災害予行訓練の実施 13.市民への震災対策の啓蒙 上記活動が可能なセンターの実現のためには、資源的、人材的援助が必要であ り、国、地方自治体、企業の援助が必要不可欠である。 本来ならば、実際の拠点、設備も含めたセンターの設立が望ましいが、現実的 には無理であるため、現存の各ボランティア団体と協力の上、体制作りに主点 を置き、活動を開始する。 特に、WNN(NGO)、IVN(?)等と協力の上、上記センターの設立に 向けて、活動していく。また、使用インフラはNiftyServe、インターネットを 前提として考えている。とくに、日本の現状から鑑みて、商用ネットである、 NiftyServeは、上記活動の中心となるインフラであると考える。インターネッ トは未だに大学、企業、研究機関間のみのものであり、有事の際のそのアクセ スポイントの設置に関しては、未だ制約が大きすぎる。 ただし、MLの例を取ってみても技術的にはインターネットのほうが上である ため、NiftyServe、インターネット双方のネットワーク利用は不可欠のものと 考える。 インターVネットに関しては、その主催者側の意図不明、永続的保証が無い点 を考慮して、使用は考えない。もちろん、一協力団体としては考える。 合い言葉は「こんどは、もっと、うまく、やります。」 (ニュースキャスターの筑紫てつや氏のある報道論争に関する意見からの引用。) 〜〜[VAC(Volunteer Assist Center)構想]ここまで〜〜 (インターVネットに関する上記意見は当時の率直な意見です。ご理解願います。) [VAC構想中止理由および他防災計画に関するコメント] さて、このような構想を考え、VAGの中で議論したのですが、結局は外部に 正式公表しないままに終わりました。本構想を外部に提示したのは、神戸市の 提言集に匿名で投稿、WNNの水野さんに個人的に相談、インターVネットの 「情報団」への参考として1995年9月19日にインターVネットユーザー 協議会のMLに流した、くらいです。どうして、VAC構想が立ち消えになっ たのでしょうか?理由としては以下の4点が挙げられます。 VAC構想への移行中止理由 1.発表のタイミングが難しかった。 2.「阪神大震災だから活動したい」との声も会員の一部にあった。 3.個人的に十分な時間が無かった。 4.私自身の意識(視点)変化 理由1は、当時、多くのボランティア団体が活動停止している中、VAGまで このような構想のもとに走ると 「阪神大震災は、もう終わり」 と取られかねないという危惧があったからです。少なくともネットワーク上で はそうでした。 理由2に関しては、そのものずばりで、 「神戸の人を助けたいから、VAGに参加した。」 と言う会員も多かったのです。そのような人たちに私の考えを押し付けるわけ にはいきません。 理由3が最も大きな理由かもしれませんが、当時は私個人としても仕事との両 立は時間的にひじょうに難しい状況でした。 そうこう悩んでいるうちに、理由4の「私自身の意識変化」が起きたのです。 VAC構想は誰が見ても明らかなように、ニュース!編集部、情報ボランティ アグループ、外大ボランティア、VAG等の今回の震災で現れたいろいろなボ ランティア団体の活動を基にしたものです。(今回の震災の情報系ボランティ アの活動に関しては、http://www.osaka-med.ac.jp/vagの「情報ボランティア 団体とVAGについて」清水著を参考にして下さい。) と、言うことは、誰が考えても同じようなものになるであろうという予測が簡 単につきます。 「それならば、他の余力のある人々にやってもらおう。」 という考えがまず、頭に浮かびました。幸い、WNNの水野さんが、VAC構 想を高く評価してくださり、通産関係の防災システムやインターVネットユー ザー協議会でも同様なことをおやりになっていましたので、渡りに舟と下駄を あずけてしまいました。その後、VAGの活動を続けて行ったわけですが、1 年弱に渡るVAGの活動を通して、もっと違う意見を持つようになりました。 それは、以下の3点の考えに集約されます。 1.VAC構想も含めて多くの防災計画は、「阪神大震災」を教訓にするのは 良いが、その「あと追い」に終始していないか? むやみに「阪神大震災」で 行われた活動を踏襲しようとしているが、今回行われた活動が果たしてBES Tのものだったのだろうか?という疑問が拭えない。VAGに限って言えば、 BESTの活動をしたとは到底言えないし、BETTERでも無い。「それし かできなかったからしてきた。」と言う感が強い。もしかしたら、震災時の活 動を考える上で、もっと違う切り口があるかもしれない。違う角度から見直せ ば、もっと有効な方法があるのではないだろうか?ところが、多くの防災計画 は、そのようなポイントを見出すことが、ひじょうに難しい。 2.防災計画があまりにもボランティアを当てにしすぎている。元来、ボラン ティアは自発的意志のもとに行われるものであって、いつその活動を止められ ても文句を言える筋合いも無いものである。そのようなボランティアを最初か ら計画に組み入れることは間違っているのではないか?もちろん、ボランティ アの力を過小評価しろと言うわけではないが、防災計画というものはボランテ ィア等の不確定要素は極力いれずに考え、ボランティア無しでも最低限動くも のにしなければいけないのではないだろうか?特に、行政に言いたいが、今回 の震災を教訓にするのならば、 「如何に有事に行政サイドの機能の維持ならびに強化を行うか?」 を考えるべきのところ、「この部分はボランティアに...」という考えが多 すぎないだろうか?今回、ボランティアがやってきたことのうち、多くのこと (VAGの活動も含めて)は、本当は行政サイドで行うべきことである。それ にも関らず「次回もまたお願いします」では、あまりにも進歩が無いのではな いだろうか? 3.防災計画がインフラ、リテラシの変化をあまり予測していない。特に、今 回の震災で生まれた「情報系ボランティア」という言葉は、あくまでも、今回 の震災のみのための言葉ではないだろうか?1年後に別の場所に震災が起きれ ば別であるが、5年も経てばインフラ、リテラシは大きく変わる。それと共に 、我々の活動内容も変わるに違いない。これは、一昔前なら、運転免許を持っ ていれば重宝がられたのと同じアナロジーである。20〜30年前までは運転 免許を持っている人は少なく特殊技能であったが、現在では多くの人が持って おりべつに特殊技能ではない。通信関係も同様であろう。きっと関東大震災の ときは、別の形で情報を伝達するボランティアがいたに違いないし、それは、 瓦礫の片付けをしたり、お年よりの面倒をみたりするのと変わりはないであろ う。VAGの会員の多くも「自分は情報系ボランティア」などとは思っていな い。とりたてて、「情報系ボランティア」と呼ぶ必要もないのではないだろう か?そのような観点から考えると、現在の情報系ボランティアの形をそのまま 踏襲しようとすることは、あまり意味がないのではないだろうか? いろいろと私見を述べさせてもらいましたが、私はなにも現在、いろいろなと ころから出ている防災計画を否定しているわけではありません。ただ、 「ちょっと違うな〜」 と感じた点を述べただけですので、誤解無きよう願います。WNNの水野さん に先日お会いした時に、水野さんが 「何が必要なのかを考えられる、感性を後世に残すことが必要だ。」 とおっしゃっていましたが、そのとおりだと私も思います。その観点から言え ば、インターVネットユーザー協議会の出されたような「提言」は是非必要だ と思います。あえて、苦言を言わせていただければ、 1.ボランティアに重心が偏り過ぎています。もっと行政サイドに振るべきで しょう。そもそも、「提言」の質というか内容というか、そのものが行政寄り の発想だと思いますので、何を行政にしてもらって、何をボランティアが埋め るのか良く考えていただきたい。また、実行するのならいっぺんに全部は無理 でしょうから、一つ一つ小さいところから、必ず行政を巻き込みながらやって頂きたい。 2.数年後には、今回の震災のように「情報が無い」という事態よりも「情報 が有りすぎて選択できない」という事態に遭遇する可能性が高いのではないで しょうか?今のインターネットを見れば予想がつきます。しかも、悪いことに 、もっと多くの人達が手軽にネットワーク上に入ってきますから、回線も有事 の際に生き残ってもひじょうに混む可能性があります。技術の進歩とこういう ことはイタチゴッコですから、そういう事態になる可能性は大でしょう。そう なった場合、 「如何に情報が必要な人に、有効な情報を提示可能とする」 ことができるか、考えていただけないでしょうか? いずれにせよ、「今度は、もっと、うまく、やりましょう」 しかし、一生、「今度」が来ないことを祈ります。 [最後に] この辺で、本稿は終わりにしようと思いますが、現在、VAGは登録会員60 名、実質活動会員30名です。その活動も従来の生活情報収集から、現地のボ ランティア団体のネットワーク化、WWWホームページ作成指導、仮設住宅へ のパソコン導入等、多岐に渡っております。取りあえず、会員の皆さんが「止 めましょう」といわない限り活動を続けていくつもりですし、私自身も、この 目で神戸がどうなっていくのかを見届けたいと思います。VAGに興味のある 方は是非、私までメイルを下さい。他団体に所属していられるかたも問いませ ん。VAGのメイリングリストはオープンです。また、我々がお手伝いできる ようなことがる方も気軽に連絡を下さい。 「できないことは、できません と言う」も我々のモットーですから、気軽に 何でも問い合わせて下さい。 最後に、私のような人間と一緒に1年近くも活動を続けてきてくれたVAGの 会員の皆さんにこの場を借りて、深く感謝の意を表するとともに、今後もよろ しくお願い申し上げます。                 1995年1月31日 増澤@VAG          masuzawa@ri.ncvc.go.jp/PAG03102@niftyserve.or.jp