Date: Sun, 14 Jan 1996 18:54:04 -0900
From: funaken@ccs94.cla.kobe-u.ac.jp (Takeo Funahashi)
Subject: Tsuushin No.15(perfect?)
...[中略]...

舟橋@記録室 です。

以下に記録室通信15号の訂正版を再送致します。

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             #####################

                   記録室通信(Renewal)
                      24-Dec-1995 第15号(年末特別号)

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                                             Quake Chronicle Project
                                                    震災・活動記録室


             −はじめに−

 今回は、いつもとは違った形で「年末特別号」をお届けします。
 震災から1年が経とうとしていますが、現地では、人もそれを支えるお金も
まだまだ足りないという声が強い一方で、被災地の状況が分からない、何が、
どう必要なのか全く見えないという声も、遠隔地をはじめとしてよく聞かれま
す。
 いったいボランティアたちは、どのような現実に動かされて、被災者支援の
活動を続けようとしているのでしょうか。活動が長期化して疲れもたまり、年
末年始は自分の家にも帰りたい。そんな中、あえて阪神淡路にとどまってこの
地域の現実に関わろうとしているボランティアたち。彼らが関わろうとしてい
る「現実」とはいったいどのようなものなのでしょうか。
 今回の特別号は、このような趣旨でボランティアの触れている現実、そして
ボランティアたちの声を取り上げました。みなさんのご感想をお待ちしていま
す。


             −仮設から−

 震災からもう1年になろうとしています。仮設住宅に住んでいる方々はどう
しておられるのでしょうか?仮設住宅を中心に支援活動を行っているあるボラ
ンティア団体が、仮設の住民の方々の声を集めました。そのうちのいくつかを
紹介します。なお、文中の言葉は、住民の方がシートに書き入れたとおりに表
現しています。
                   ----------------------------

・避難所で七ヶ月過ごし、やっとプライバシーが守れる所に落ちつきました。
でも、あくまでもここは仮設住宅。自立できない者には市住か県住の入居を待
たなくてはなりません。それ迄健康に過ごすにはどうすればよいか? 仮設を
一歩出れば石ころの道。足を念挫しないだろうか。又、孤独になってうつ病に
なったりしないだろうか。色々不安におそわれます。精神的な異状は自分では
わかりにくいもの。人と人との出逢いの場をお願いしたいと思います。

・困っている事は多数ありますが御近所の事なのであまり言えない状態です。
我家にも一才になる子供がいて迷惑をかけていると思います。が、分別ある大
人の方が・・・・。夜遅くの犬の散歩(深夜)と同じく深夜の犬の遠吠え。う
るさくて眠れず、朝までという時もたびたびです。少し遅くなると、オフロに
も入れません。トイレの音にも気を使い、プライベートがありません。個室に
なった避難所の学校の様なものだと思います。他、精神的な病気の方々も多数
いらっしゃいます。先日、母親も犬にかまれたのですが、かい主がうつ病だそ
うで自分達で気をつけるしかないのでしょうか。(おいそがしいのに、いつも
ごくろうさまです)

・1、越冬金を一日も早く出して下さい。
 2、市営住宅を早く建てて下さい。
 そして仮設の人々と仲良くなって居ります。お互いに助け合をして居ります
ので住宅に入居の時はなるべく同じ仮設の人達と共に入居さして下さい。おね
がひ致します。 (70代 女性)

・ご支援ありがとうございます。今のアルバイトが12月で終わるので来年か
らまた職探しに歩かねばなりません。病気をしたら収入がなくなる上に、健康
保険にも入っていないので、病院代のことを思うと暗くなります。なるべく考
えないようにはしていますが。自分ではまだ若いつもりでいましたが、なかな
か雇ってもらえなくて、困っています。仮設を出ていくことなど、まだ全然考
えられません。ここは家賃がいらないので本当に助かっています。
(40代後半 男性)

・私は遺族年金生活で6●才、一人暮らしです。身体に障害はないのですが腰
痛、肩など(心の病)うつ病で神経科など行ってます。今年12月で無料治療
費も切れます。外出すれば気もまぎれますが、遠い仮設生活では交通費も1,000
円になり・・・働きたくても60才過ぎるとありません。生活に困り家にこも
りがちで(うつ病)になってしまいます。

・何人かボランティアが来ても、言うことは同じ。結論もでていない。“がん
ばってください”で終わる。そうしたら、このように話している時間がむだ。
ボランティアと行政が話をした結果だけでも知りたい。(以上、ボランティア
による聞き取り)

・この仮設の不便さと言い、支援のなさと言い、今にもがんばりの糸がきれそ
うです。
                   ----------------------------
                   
 私たちは勤め人や学生が週一度でもボランティアに参加できるように、又遠
くの方でも一度だけのボランティア奉仕が可能なように「週末ボランティア」
方式を開発しました。どうぞ全国から一度だけでも、手助けにおいで下さい。
現在仮設住宅支援を行っております。     週末ボランティア 東條健司



    −年末年始は、ここ(仮設住宅)で過ごされますか?−

 仮設住宅における様々な問題点が指摘される中、年末年始を一人で過ごされ
る方々の多さにボランティアも危機感をつのらせています。そのような状況の
中、ある地域のボランティア団体が、第一次入居の仮設住宅7カ所を対象にア
ンケートを実施しました。 そのアンケートの結果をご紹介します。なお、プ
ライバシー保護のため、具体的な仮設住宅名やボランティア団体名は控えさせ
ていただきました。また、このアンケート結果は、実施した地域が限定されて
いるため、すべての仮設住宅に当てはまるものではないことも併記しておきま
す。
              アンケート実施日:11月15日〜12月4日
    ----------------------------------------------------------
    仮設住宅名   設問回答    回答戸数    比率%
    ----------------------------------------------------------
            はい      13           92.9
             一人で       2     15.4
    A仮設住宅    家族と      11     84.6
    (規模X)    未定        0      0.0
            いいえ      0      0.0
            未定       1      7.1
    ----------------------------------------------------------
            はい      19      61.3
            一人で        6     31.6
    B仮設住宅    家族と      11     57.9
    (規模X)    未定        2     10.5
            いいえ      4      12.9
            未定       8      25.8
    ----------------------------------------------------------
            はい      62      81.6
                 一人で      15     24.2
        C仮設住宅    家族と      35     56.4
        (規模Y)    未定       12     19.4
                いいえ      7      9.2
                未定       7      9.2
        ----------------------------------------------------------
            はい            38            80.9
             一人で      11          29.0
        D仮設住宅       家族と      23          60.5
        (規模Y)    未定        4     10.5
            いいえ      5      10.6
                    未定       4      8.5
        ----------------------------------------------------------
                    はい      34      81.0
                     一人で      23     67.6
        E仮設住宅    家族と      10     29.4
    (規模Y)    未定        1      3.0
            いいえ      5      11.9
            未定       3      7.1
        ----------------------------------------------------------
            はい      23      79.3
             一人で       9     39.1
    F仮設住宅    家族と      13     56.5
    (規模Y)    未定        1      4.4
            いいえ      4      13.8
            未定       2      6.9
        ----------------------------------------------------------
            はい      88      77.9
             一人で      27     30.7
    G仮設住宅    家族と      47     53.4
    (規模Z)    未定       14     15.9
            いいえ     16      14.1
            未定       9      8.0
        ----------------------------------------------------------
        
        *注 規模X:戸数20〜40戸程度
       規模Y:戸数50〜100戸程度
       規模Z:戸数200戸以上

  【7カ所の総計】
        --------------------------------------------
    設問回答    回答戸数    比率%
    --------------------------------------------
    はい      277     78.7
     一人で       93    33.6
     家族と      150    54.1
     未定        34    12.3
    いいえ      41     11.6
    未定       34     9.7
    --------------------------------------------



         −なぜボランティアをするのか?−

 この年末年始に、各仮設住宅において様々な催し物が企画されています。例
えば、それは餅つきであったり、年越しそばを作ることであったり、おせち料
理を一緒に食べることであったりします。しかし、そのような企画がある種の
「イベント」のように取られているようにも思います。しかし、これはイベン
トではなく、すべてが意味を持ったものなのです。
 今回は、このような催し物にどのような意味があるのか?ボランティアを動
かしているものは何か?ということを、伺いました。

「なぜ、もちつきをするのか?」:中溝茂雄さん(Poco a Poco 鷹取)
 我々ボランティアは、被災された人々の生活支援をしている。生活というの
は、住むところがあって、食べるものがあるというハード面だけではなく、「
うるおい」や「ふれあい」というソフト面が絶対に必要である。そのためには、
仮設住宅の自治会が力を持って、住民自身が互いに隣近所で支え合いながら、
うるおいのある生活が出来る「コミュニティ」が形成されるチャンスを作るべ
きだと思う。しかし、自治会の役員の方々自身も被災された方ばかりで大変な
仕事であるから、そのサポートをボランティアもしていく必要がある。
 それが、年末であるから「もちつき」という形をとっただけであり、もちつ
きは単発のイベントではなく、皆が集まってコミュニティを形成するためのチ
ャンスなのだ。

「なぜ、年末年始に活動をするのか?」:石井明美さん(ゆいまーる神戸)
 A仮設住宅では、約160戸のうち、60人がひとり暮らしをしている。これは、
初期に募集された所であるため、高齢者や障害を持った方が非常に多い。また、
この仮設住宅へ行くには、市街地から遠く離れた所にポツンと存在しているた
め、非常に時間がかかってしまう。このような状況で、一緒に正月を過ごす家
族もなく、賑やかな場所へもなかなか行けない方々のためにも、12月30日から
1月3日にかけて、一緒に年越しそばやおせち料理を食べたり、もちつきやお茶
会をすることによって、少しでも“さみしくないお正月”をおくってほしいと
思っている。

    *A仮設住宅は、市中央部から電車で15分、バスで10分、それから
     20分以上坂を登った所にあります。



               −寄稿−

 今回は、いちボランティアの声として、「グループ あばうと」の季村敏夫
さんに寄稿していただきました。年末年始になぜボランティアをするのか?今、
ボランティアを動かしているものは何なのか?という問題を考えるきっかけに
もなるのではないでしょうか?

       --------------------------------------------

 私には帰る家があります。暖かい団欒が待っています。トントンとなつかし
い包丁の音も響いています。そのひとつひとつに支えられ、私は頑張ろうとお
もいます。

 こんなふうに日記に書きつけたのも、昨日のことのようです。みんなは一月
十七日午前五時四十六分のこと、それからの大変だった日々を語りたがります
が、私はへそ曲がりなので語りたくありません。私には十七日以降の方が、以
後の以後の方が大切なのです。

 あの日、限られた地域に、突如、出来事の非人間性が襲いました。私はオロ
オロと、そしてそんな自分が滑稽でした。言葉は奪われていました。新聞など
見る気もおこらず、何をも語れず、「君等から、ぼくらはどううつっている」
東京の友人におもわず、こう質問したものです。

 生き残ったといっているのではありません。気づけば私はたまたまここに居
ました。あのひとは炎に包まれていました。恐ろしい静寂のなか、私はこれは
何かの間違いではないのかと佇んでいました。そのとき、父親から譲りうけた
私の会社も、黒煙のなか倒壊していました。

 気づけば私は肉体の塊となり動きまわっていました。十七日以降、無我夢中
の日々が続きました。目の前で呻いているひと。うずくまるひと。思わず声を
かけ、背中をさすっていました。あとでわかりました。私は遅れて気づきまし
た。それが私の現場でした。

 「なんだか人生観が変わったようです」「奥尻や雲仙のことが他人事でなく
なりました」こんな言葉があふれるようになりました。それ、ほんとうと私は
自分に言い聞かせ、私はとても信じられないと首をふっていました。この機会
を逃してはならぬ、これで戦争体験をもつひとと対等になれる、今はただ肉体
の酷使に耐えるのだ、私はつぶやいていました。

 寒い一月から桜が散る四月の中頃まで、熱い絆があふれていました。しかし、
秋になる頃、何かが変わりだしました。「焼けだされたけど、こうして一日生
きれたことが幸せです」こうささやいていた老人が、「おかげさんで、ここで
死ねます」「わしらは島流しにおうたようなもんや」ふれあいセンターの完成
式では、こう変わっていました。

 紙一重の差で私は、たまたま今ここに居る、紙一重の違いで、あのひとは下
敷きになった、私には帰れる家もある、私の胸のなかで、この違いがうずきま
す。私ではなく、なぜあのひとが抹殺されてしまったのか。私が場所からズレ
たこと。私が時間から、わずかにそれたこと。この遅れの意味を問うことから、
以後の歩みが始まりました。

 お正月には、家で、ではなく、お正月だからこそ、家を出よう。家を出て、
仮設住宅の、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒にお餅つきを。私がこんな誘
いにひかれたのも、あのときの現場を追体験したいからです。自分のなかで何
が変わり、何が変わらないのか。そんなことを現場のなかで確かめたいからで
す。

 忘れていく。記憶が薄れていく。それはどういうことなのでしょうか。私の
なかで記憶が薄れても、一月十七日の死者は死者として生きつづけます。理不
尽に途絶された彼等の記憶は、そのまま闇のなかで息づきます。

 私達の生は、生きたかったが無惨に断ち切られた尊い犠牲のうえにある。ロ
シアの映画作品で、こう歌われていたことが私の胸に透き通ります。おもいは
それぞれ違っていても、同じ「魂の日」を共有する体験を、どのように生かさ
れる経験に深めていくのか。死者に呼ばれている。私は寒風のなかに佇んでみ
ようとおもいます。
                    季村敏夫(グループ あばうと)


             −記録室からのお知らせ−

●記録室では10月以来、これまでに集めた資料のうち、すぐに公開できるも
のとそうでないもの(少し手を加えれば公開可能なものから、全く不可能なも
のまでさまざま)を選り分ける作業をしてきました。膨大な手間のかかった作
業でしたが、9月14日時点での整理済み資料(204団体、約560点)のうち、
即公開可能なものの選別がこのほど終わり、週明け26日(火)には、約170点
を神戸大学附属図書館「震災文庫」に入れます。(次には、すぐには公開でき
ない資料を、本人の許諾を得たり個人情報を抹消して公開に移す作業が控えて
います)
●収集した資料をどのように処理するのか、どのような資料を集めるのか、ま
た、そもそも私たちは何のために「記録」を集めようとしているのか、記録を
残すとは、いったいどんな意味を持つ行いなのか、このようなことにつき、私
たちは記録室内部でさまざまな議論をしてきましたが、最近は外部の方々との
交流も増えてきました。その経過は、「記録室通信」誌上でも発信してゆきた
いと思いますが、随時、定例ミーティング等においてもオープンな議論の場を
持ってゆきたいと考えています。関心をお持ちの方は、記録室までお気軽にご
連絡下さい。

*記録室は、12月28日(木)〜1月4日(木)まで事務所を休ませていただきま
す。しかし、メンバーの中には年末年始を他の現場のボランティアに混ざって
活動をする者もいます。その報告は、次号以降の通信でも紹介したいと思いま
す。

<お詫び>
  特集「社協って何?」パート2は次号以降に延期させていただきました。


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