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音響

残響

残響 (reverberation) の計算法についてのべる. 残響のシミュレーションは音楽をよりよくきかせたり,部屋の雰囲気をだすためにおこなわれることがおおい. しかし,頭内定位を解消して音に距離感をあたえるためにも残響が有用である.

1. 頭内定位の解消と距離感付与

ITD と ILD だけによる 3D オーディオの問題点のひとつとして頭内定位の問題があるが,この問題を解決するとともに音に距離感をあたえるため,残響のシミュレーションが使用される. 残響をあたえることによって仮想音源の距離が表現されることは,たとえば Shinn-Cunningham [Shi 00a] が実験的にたしかめている. また,音現の距離が残響のある環境と無響環境とでは,前者のほうが 2.3~3.8 倍ながく認知されることを Begault [Beg 92] が実験的に確認している.

室内においては直接音が音源からの距離に反比例して減衰するのに対して,残響は音源からの距離によらずほぼ一定である. そのため,音源からの距離が増加するにつれて間接音と直接音との比 (R/D ratio [Beg 00]) は増大する. この R/D 比が人に音源の距離に関する感覚をおこさせているとかんがえられている [Bro 99]. しかし,実空間における R/D 比を完全にシミュレートするのがかならずしもよいわけではなく,Gardner [Gar 99] によれば,直接音は距離が 10 倍になるごとに 20 dB 減衰 (すなわち振幅にして 1/10 に減衰) するが,3D オーディオにおいては残響も経験的に (実空間よりおおきい) 10 dB 減衰させるのがよいという.

いずれにしても,残響の量や特性はは部屋ごとにことなり,R/D 比も部屋によってことなるので,それらがもし固定的に距離の感覚にむすびついていると仮定すると,正確に距離を把握することはできないことになる. Shinn-Cunningham [Shi 00b] は,ひとがそれをおぎなうために学習をおこなっていることを実験的に確認している.

2. 残響の構造

室内における残響はつぎの 2 つの部分からなりたっているといわれている (図 1 参照) [Gar 94b]

初期反射 (early reflection)
室内では,直接音がきこえたあと数 ms から 100 ms くらいのあいだに,条件によっては,壁,天井,床などからの数 10 個の反射を他の音から分離してきくことができる. これが初期反射である. 部屋の形状が直方体であれば 1 回反射は 6 個だけだが,より複雑な形状または家具などがある部屋においては反射音の数がふえ,また壁などで複数回反射した音もきこえる. 初期反射は直接音とまとめてひとつのながれの音として認知されるという [Gri 00a]
後期残響 (late reverberation)
直接音がきこえてから 150 ms 以上すぎたころには,音は多数回反射し,反射音の数もふえているため,もはや個々の音をくべつしてきくことはできない. また,音は等角反射するだけでなく壁・天井などで散乱されるため,残響の構造はさらに複雑になる. これらによって構成されるのが後期残響である. このような後期の残響は,方向・位相がランダムで指数関数的に減衰する音によってをモデル化される. 後期残響は直接音とはことなるながれの音として認知されるという [Gri 00a]

reverb.png
図 1 室内残響の構造

後期残響が直接音に対して 60 dB 減衰するまでの時間を残響時間という. 残響時間は家庭などのちいさな部屋では 0.5 秒程度,音楽用ホールでは数秒程度である.

残響は上記のように構造化されているとかんがえられている. Shinn-Cunningham はこの構造のどの部分が音の距離感にどのような影響をあたえているのかは明確化されていない [Shi 01] とのべている. しかし Begault ら [Beg 01] は,方向感の正確さ (azimuth error) についても頭外定位についても,後期残響までふくめた完全な残響と初期反射だけの残響とのあいだで明確な効果があり,かつそれらを比較して効果にほとんど差がないことを実験結果としてえている. また,残響付加装置の製品で有名な Lexicon 社の D. Griesinger によれば,個別の音のひろがりは直接音がきこえてから 50 ms のあいだにかなりきまり,50 ms から 150 ms のあいだの音は,ひとはエネルギーとしては感じるがその時刻や方向などを変化させても鈍感だという [Gri 00b]. しかし,一方で,初期反射は方向感をにぶらせる.

関連項目

参考文献

  • [Beg 00] Begault, D. R., “3-D Sound for Virtual Reality and Multimedia”, NASA/TM-2000-XXXX, NASA Ames Research Center, April 2000, http://human-factors.arc.nasa.gov/-ihh/-spatial/-papers/-pdfs_db/Begault_2000_3d_Sound_Multimedia.pdf
  • [Beg 01] Begault, D. R., “Direct Comparison of the Impact of Head Tracking, Reverberation, and Individualized Head-Related Transfer Functions on the Spatial Perception of a Virtual Speech Source”, J. Audio Engi-neering Society, Vol. 49, No. 10, pp. 904–916, October 2001.
  • [Bro 99] Bronkhorst, A. W. and Houtgast, T., “Auditory Distance Perception in Rooms”, Nature, 397, pp. 517–520, 1999.
  • [Gar 94b] Gardner, W. G., “The Virtual Acoustic Room”, Masters Thesis, MIT, 1994.
  • [Gri 00a] Griesinger, D., “The Theory and Practice of Perceptual Modeling -- How to use Electronic Reverberation to Add Depth and Envelopment Without Reducing Clarity”, Tonmeister Conference in Hannover, 2000.
  • [Gri 00b] Griesinger, D., “Reflections on Surround”, Sound on Sound, March 2000, http://www.soundonsound.-com/-sos/-mar00/-articles/-dave.htm
  • [Shi 00a] Shinn-Cunningham, B., “Distance Cues for Virtual Auditory Space”, 1st Pacific Rim Conference on Multimedia, pp. 227–230, IEEE, December 2000.
  • [Shi 00b] Shinn-Cunningham, B., “Learning Reverberation: Consideration for Spatial Auditory Displays”, Int’l Conference on Auditory Display (ICAD), pp. 126-134, April 2000.
  • [Shi 01] Shinn-Cunningham, B., Desloge, J. G., and Kopco, N., “Empirical and Modeled Acoustic Transfer Functions in a Simple Room: Effects of Distance and Direction”, Workshop on Applications of Signal Processing to Audio and Acoustics, IEEE, 2001.
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