並列 / 分散 / 協調処理に関する「琉球」サマー・ワークショップ (SWoPP '94) 報告

報告者 : RWCP ニューラルシステム研究室  金田 泰
Written as plain text: 8/1/94.
Rewritten by HTML: 10/8/94, Modified: 6/8/95.

参照 : [RWCP ホームページ], [金田のホーム・ページ] [親ページ].


1. 概要

情報処理学会 5 研究会と電子情報通信学会 4 研究会合同の上記ワークショップにおいて発 表および聴講するため,7/21 〜 23 に西武オリオンホテルに出張した.発表件数は 47 機関 (大学・高専 34,企業 11,国立機関 2) からの総計 152 件,参加者は合計 300 人であり, 発表件数,参加者ともに過去最高だった (主催者しらべ).今回は上記の研究会の発表以外 に,並列計算機などのベンダによるセッションももよおされた.昨年にくらべると興味ぶ かい発表の件数はすくなかったようにおもわれる.聴講したおもなセッションはつぎのと おりである. なお,報告者が聴講したかった発表が前半に集中していたため,そのすべてを聴講するこ とはできなかった.

2. 注目すべき発表

いくつかの発表について報告する.

2.1 人工知能研究会

AI-2:95-4 創発的計算のためのモデル CCM による問題解決における局所性の制御法,報告者

SWoPP '93 における 発表にひきつづいて CCM による問題解決について発表した.前回との差分は,情報の 局所性すなわちどれだけ少数のデータにもとづいて計算するかの度合,および探索空 間のなかでどれだけ局所的な範囲を探索するかによって,問題解決の性能がどのように変 化するかをしめすことだった.しかし,CCM についての入門的な説明などに時間をとり すぎたため,局所性の制御法について十分に説明できなかった.
質疑 : 局所性を制御することによる問題解決の性能の変化のしかたが CCM に特有のもの かそれとも一般的になりたつか (こたえは前者),またそのような変化をする理由はなにか, などの質問があった.

AI-2:95-6 確率的制約プログラミング,橋田 浩一 (電総研) 他 2

橋田は SWoPP '93 において "力学論理" にもとづくプログラミングを提案している.今回 はこれを一般化した確率的制約プログラミングについて発表した.あらかじめあたえられ た知識 (定義節) のそれぞれに確率が付与されていれば,これをもとにしたベイズ的な確 率計算によって方向づけられた探索がおこなわれる.
感想 : 定義節にどのような確率を付与すればよいかがよくわからない.具体的な例はあげ られていない.あらゆる知識に事前確率をあたえるというベイズ的なやりかたが現実的か どうか,報告者はうたがっている (付与すべき確率が不明なら均等な確率をあたえればよ いかもしれないが,それが適切かどうかわからない).

AI-3:95-10 有機的プログラミング言語 Gaea におけるエージェント間通信,中島 秀之 (電総研)

中島は Gaea についての発表をすでに数回おこなっている (MACC '93, プロシン '94, ...) が,今回は "交差点問題" を例と してエージェント間通信の方法を論じている.この問題は従来のオブジェクト指向ではう まく記述できないが,Gaea ではうまく記述できるという.また,"スケールに関して厚い システム" という見方をしめして,それをつくることの重要性を指摘している点はこれま での発表になかった.この概念は,報告者が提案している "複数のモデルにもとづく計算" の概念にちかい.
感想 : "有機的プログラミング" という名前からして従来のオブジェクト指向とはことな るプログラミング法を想像させるが,報告者には Gaea はある種のオブジェクト指向に多 少の拡張をほどこしたものとしかみえない.しかし,世間のオブジェクト指向が効率追求 のあまり本来の方向からはずれたところがあるのに対して,この研究は柔軟なプログラミ ングをめざす本来の方向にむかっているといえるかもしれない.

2.2 プログラミング研究会

PRG-5: 18-22 OZ++ コンパイラによるクラスの版管理,新部 (三菱総研) 他 6

ネットワーク・ワイドで (binary) ライブラリを利用することを可能にしようという構想に ついての発表である.最新でない版の利用も可能にしようとしている.ただし,まだ実験 をおこなってはいない.

感想 : このような構想をたてるのは容易であるが,実際に実現しようとするとさまざまな 問題がおこってくるとかんがえられる.実験をおこなって問題を解決したのであれば価値 があると報告者はおもうが,構想段階での発表にはあまり価値をみとめられない.

2.3 ベンダ・セッション

日本シリコングラフィックスによる Power CHALLENGE システムの概要 (RISC プロセッ サ R8000 やそれをつかった並列機のアーキテクチャなどについて),キヤノン・スーパー コンピューティング S. I. による KSR シリーズでの並列化技法 1 (Kendall Square Research 社の並列機のアーキテクチャやプログラミングについて),日本コンベックスコンピュー タ (Exemplar SPP1000 製品概要),日本クレイ (CRAY T3D について) によるセッションを聴 講した.これはベンダ・セッション全体の約 1/3 に相当する.ある程度技術的な内容にた ちいった報告がなされ,技術的な質疑がおこなわれた.各社の並列機のアーキテクチャや 主要な応用のちがいがうきぼりにされていたとおもわれる.聴衆も部屋をうめるほどあつ まり,ベンダ・セッションというはじめてのこころみは成功したとかんがえられる.
Y. Kanada (Send comments to kanada@trc.rwcp.or.jp)